姨捨伝説
「おもかげや おばひとりなく つきのとも」、とある日本料理屋の掛け軸で見かけた俳句です。この芭蕉の句は「姨捨伝説」が主題で、それを叙情の世界に再構築したものといわれております。姨捨伝説は、若い息子が妻にそそのかされて老母を姨捨山に捨てたが、姨捨山に出る月の美しさに目が覚めて、母を連れ帰ったとするものです。
姥捨て山伝説にはこういうものあります。ある国の殿様が、年老いて働けなくなった者を不要として、山に遺棄するようにというお触れを出したことから始まります。しかしある家では、山に老親を遺棄することができず、密かに家の床下にかくまうことにしました。そしてしばらくの後、隣国からいくつかの難題が出され、それらの難題を老親の知恵によって見事に解き、隣国を退散。老人も知恵があり粗末にできぬことを知った殿様は、お触れを撤回し、老人を大切にするようになったという話です。
姥捨て山伝説の中に出てくる殿様は「老人を大切にしない、徹底したコスト管理による合理主義者」だったのです。長幼の序やそのほかの秩序を無視し、徹底した実力主義、合理主義で物事を判断しなければ生き残っていけなかった戦国時代での話でした。
今、国は「働き方改革」法案を可決しようとしています。日本は労働力の主力となる生産年齢人口(15~64歳)が想定以上のペースで減少しているわけです。労働力不足を解消し、一億総活躍社会を作るために働き手を増やす出生率の上昇、労働生産性の向上に取り組むというのが「働き方改革」の概要です。そして、生産年齢を引き上げ、その比率をも引き上げようとしております。「老人を大切にしない、徹底したコスト管理による合理主義者」はもはや過去のものです。世の老人たちは、現代の殿様に当分は尻を叩かれそうです...。